DNA鑑定と警察

2017.07.17

DNA鑑定と警察

■ 足利事件とDNA鑑定

足利事件は、警察の誤認逮捕による冤罪被害として広く知られています。
事件当時に行われたDNA鑑定に問題があった、という報道が多くある為、DNA鑑定の信頼性について疑問を抱く方もいらっしゃると思います。
実は、足利事件とDNA鑑定について、多くの方が誤解している点があるのです。

■ 足利事件における警察の捜査の問題点

足利事件における警察の捜査の問題点

まず、警察が令状無しに被告の捨てたゴミ袋を勝手に押収し、DNA鑑定を行ったという点に法的な問題があります。
次に、そのゴミ袋から得られた検体は、誰のものなのか完全に特定が出来ない上、保存状態も良くありませんでした。
判定ミスの可能性が高いという点で、検体採取のプロセスに問題があります。
その他に、技術的にも多数の問題があり、警察の捜査が杜撰であったというのは、報道されている通りです。
ここでは、これらの問題点の一つとして、事件当時のDNA鑑定の精度について何が問題であったのかを説明いたします。

■ DNA鑑定の精度に問題があったのか

足利事件における警察の捜査の問題点

足利事件で行われたDNA鑑定は、「1千人に1.244人の確率で犯人である」と判定されたと言われています。
では本当に、この「1千人に1.244人」という数字は、低く信頼できないものなのでしょうか。

これは確率の問題であり、この当時の鑑定精度であっても、捜査方法次第で信用できる結果として用いることができます。
当時のDNA鑑定であっても、鑑定を行なうまでに、固い証拠に基づき犯行可能な容疑者を数名に絞り込んでいれば、DNAが一致したときに、その人物が犯人であるという信用性の極めて高い結果となります。
しかし事件当時、足利市の人口15万人の中で、誰の犯行か検討がつかないという状況でDNAが一致しても、被告が犯人である確率は0.66%程度となり信用できない数字となります。
または、DNA型が一致しないことで、容疑者候補から排除するための正確な判定ができます。
それにも関わらず、警察は、精度の低い、いくらでも別人である可能性をはらんだDNA鑑定結果を、容疑者を排除するためではなく、犯人を特定するために使ってしまいました。

警察がDNA鑑定の精度の限界を把握した上で、捜査の最後の決め手としてDNA鑑定結果を正しく用いていたならば、それほど問題はなかったはずです。

■ 現在のDNA鑑定の精度は飛躍的に向上

現在のDNA鑑定の精度は飛躍的に向上

DNA鑑定の開発当時は、個人識別能力が1/2000ほどと非常に低かったため、判定エラーも多かったのですが、最近は1/21,000,000,000,000(21兆分の1)以上の精度で検査が可能です。
このような劇的な精度の上昇により、肯定確率99.9999%での検査が行えるようになりました。
足利事件により、DNA鑑定の信頼性について不安を感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、DNA鑑定の問題よりは事件当時の警察の捜査方法に問題があったのです。
DNA鑑定は現在も事件捜査、裁判に利用される法的鑑定、個人的な鑑定まで、様々な目的で利用が拡大しています。

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■ 父権肯定確率99.99%の本当の意味

父権肯定確率99.99%の本当の意味

聞きなれない「父権肯定確率」という言葉ですが、この言葉は「99.99%の確率で生物学的親子関係である」という意味を指しているのではありません。
これは、「限りなく100%に近い確率で生物学的親子関係である」という意味です。
100%の父権肯定確率は理論上不可能ですが、「親子関係ではない確率は限りなく0%に近い」という意味なので非常に正確な検査です。
従って、「99.99%以上の父権肯定確率で血縁関係あり」との判定がなされた場合、この結果を否定することは不可能とされます。

DNA鑑定の精度について、一部の鑑定業者がホームページ上で「自社では99.99%の確率で親子関係を確認する」と説明しているようです。
しかし、それでは非常に精度の低い検査という意味になってしまいます。
何故なら、「99.99%の確率で親子関係である」という結果は、「0.01%の確率で親子関係ではない」という意味になるからです。
今時、本当に「99.99%の確率で親子関係である」という低い精度で鑑定を行っていることは恐らくないと思いますので、父権肯定確率の意味が分からずに表記をしているだけだと考えられます。

DNA鑑定の精度についてもっと詳しくはこちら >>

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